「どツボ」の感想

劇団たいしゅう小説家『The☆どツボッ!!』を観劇してまいりました。
以下、感想です。

ロビーに入る前から気づいていたのですが、客層に占められる若い女の子たちの率の高さに驚く。たぶん八神蓮篠田光亮というイケメン若手男優のファンの子たちでしょう。それとAKB48のメンバーが出演することを、ロビーに飾ってある花を眺めていて初めて知った。
「な、なんだこの芝居は? アイドル演劇か?」
すごく場違いなところへ迷い込んでしまったような不安感を、うっすら覚えました。
開演前から舞台上のセットをさらしているのがおもしろい。少々築年数がたった感じのマンションの一室、という設定でしょうか。うまいこと雰囲気を出してつくり込むもんだなあと感心しながらぼんやり眺めているうちに「さあ芝居を見るぞ」という意気込みというか非日常感が希薄になり、ふと気づいたら演技が始まっていました。
暗転なしのワン・シチュエーションのスラップスティック・コメディ。真相が露見すると困ったことになるため、家族に対して嘘に嘘を重ねていく男が主人公です。東京ボードビルショーの『戸惑いの日曜日』と同じ設定と手法ですな。『戸惑い』のほうは、財産を奪われたバブル紳士が娘に見栄を張りたい一心でつく嘘であり、そこはかとないペーソスが漂っていましたが、『どツボ』の嘘は、家族の集まる日に愛人を連れ込む脳天気な小説家が窮地から逃れようとするもので、同情の余地はなく、嘘の内容も純粋にバカバカしさを追求するような感じです。「配偶者に見られたくない人物を自宅に隠す」というプロットは、ニール・サイモン脚本の『昔みたい』を連想します……って、まあ、こんなふうに類似点を列挙しても意味はないんですけどね。シチュエーションコメディの基本フォーマットはそう多くないはず。出発点は共通で、どう笑いを構築していくかという膨らませ方のバリエーションで勝負するものなんじゃないかと思います。


ストーリー自体は単純なのですが、主人公がその場しのぎの嘘を次々につくので、登場人物それぞれが異なった認識を持ってしまい、またそれぞれが家族を傷つけまいと自分なりの嘘をそこへ重ねる複雑な構造へ展開していきます。
よく「ドタバタ喜劇」といいますが、本当に役者たちが舞台をドタバタ走り回るシーンもあり、全体的にスピード感とアクティビティを重視した演出をめざしていたと思われます。
テンドンのギャグをしつこく繰り返すなど、ぼくには「ちょっとクドいかな」と感じられなくもない部分もあったものの、全体的には払ったチケット代の「元は取れた」と客に思ってもらえる芝居だったといえるでしょう。
脚本の仕上がりが遅れ、稽古期間も長く取れなかったらしく、役者同士の息が微妙にずれていたり、アドリブと思われるセリフが散見されたところに、練り込みの足りなさが出ているということもできそうですけれど、気になるというほどではなく、逆にハプニング的なおもしろさとして生かしてしまえという思い切りが、いい結果につながっていたようです。
主役のモト冬樹が多量の汗をかき、目に入ったりしてつらそうだったんですが、共演者が芝居のふりをしてタオルを持ってくる……など、臨機応変にフォローしあっていて、たいへん好感の持てる舞台でした。
ちょっとびっくりしたのは、AKB48の篠田麻里子が意外に存在感を放っていたこと。さほど演技力が問われない役柄ではあったにせよ、舞台初挑戦とは思えぬ度胸のいいパフォーマンスでした。さすが秋葉原で鍛えられているだけはありますな。一ヵ所、誰かのセリフがツボに入ったか、吹き出しそうになってしまい、どうなることかと思ったら、懸命にこらえて乗り切った。
最近テレビドラマでちょくちょく見かけるAKBの子たちはほとんど印象に残らないんで、「AKB恐るるに足らず」と決めつけてたんだけど、認識を改めたほうがいいのかもしれない。


さて一方、保田は、あいかわらず声の通りがよく、セリフが聞き取りやすい。親兄弟や恋人にもずけずけものをいう、しっかり者の妹という役柄に合わせ、早口で喋るシーンが多かったのですが、セリフをまったくとちりません。といっても、保田もすでに10本くらい芝居に出ているわけですから、「セリフを噛まないで言える」なんていう誉め方は的外れもいいところでしょう。佇まい的にはベテランな雰囲気が漂い、芝居を引き締めています。
(本物の)ベテラン女優である円城寺あやが演じる、落ち着いた奥様ふうを装ったまま、とことん勘違いに気づかず暴走していく天然キャラ……のような奥行きのある演技の領域に達するのは、まだ遠い未来かもしれませんが、『ネムレナイト』あたりではいくぶん感じられた“堅さ”のようなものは消えつつあり、舞台女優としてだいぶこなれて、余裕が出てきたように思います。