ひと夜のしあわせ

サザンオールスターズのサポートミュージシャンであるギタリスト、斎藤誠のライブへ行ってきました。
といっても、実はお目当てはメインキャストではなくゲストのほう。なんと、ロジャー・マッギンが出演するのです。それを知ったのはつい1週間前、たまたまカーラジオの告知CMを耳にしてのこと。あのとき車を運転していなかったら、おそらく知らないままだったでしょう。運がよかったです。
それにしても、横浜赤レンガ倉庫の、キャパ300人程度の小さなホールでおこなわれる、業界では一流として知られていても、一般的な認知度は低い地味なミュージシャンの、しかもワンナイトスタンドのライブに、なぜロジャー・マッギンが? 心底不思議だったのですが、行ってみたらすぐ謎が解けた。斎藤誠はギター・メーカーのマーティンがサポートしているギタリストであり、この夜のライブもマーチンが主催。そしてロジャー・マッギンもマーティン・ユーザーであり、つながりは深いんです。この日もマーティン社の責任者と一緒に飛行機に乗ってきたらしい。要するに、マーティンが招待したわけですね。
ちなみに、1999年から開催されているこの「リバース・ツアー」には、森山良子、吉川忠英、元オフコース鈴木康博高野寛、元フライングキッズ浜崎貴司サザンオールスターズ関口和之、海外のミュージシャンでは元ウィングスのローレンス・ジュバーが参加している。
ロジャーはカスタムメイド(シグネチャーモデル)の7弦アコースティックギター「マーティンD-7」を抱え、最近のトレードマークとなっている黒いソフト帽をかぶって登場。『Turn! Turn! Turn!』『Ballad Of Easy Rider』『Eight Miles High』など、バーズ時代のレパートリーをアコギ1本で、あるいは斎藤誠とのデュエットで披露しました。
MCも興味深い内容。『Ballad Of Easy Rider』はボブ・ディランとの共作だが、ディランはほんの数語の詩を書いただけ。「あとはロジャー・マッギンにつくってもらえ」と言われたピーター・フォンダが、ロジャーの自宅をいきなり訪ねてきたので驚いたとか、『Mr. Tambourine Man』のイントロがバッハのカンタータ『主よ人の望みの喜びよ』を元ネタにしていたとか。そんな、おもしろいエピソードが聞けたのもよかったです。
ホスト役の斎藤誠は、ロジャーのコーナーが終わった後半のほうが、圧倒的によかったですね。声ものびのびと出ていた。前半は、大物ゲストを迎えるというので緊張していたらしい。後半とはまるで別人のようでした。
メロウでありながらパワフルな歌唱は、ちょっとボズ・スキャッグスに似ているかな。音楽性的にはネッド・ドヒニーとかそれ系のしっとりした“大人の甘さ”的なポップス調で、そのせいか、客席には若い女性の姿が多かった。男性客は、いかにもミュージシャンふうだったり、ギョーカイ人っぽい感じの人が目立った。
明らかにロジャー・マッギン目的だろうというオッサンは意外に少なく、もしかしたらぼくが最年長客じゃないかとすら思えるほど。ただ、ぼくの隣の席だった、デビッド・クロスビーみたいな体型と頭髪の持ち主であるおじさんは同年代か、ちょっと上かなあ。この人は、断言してもいいが、ロジャー・マッギンだけ聞きに来たんだと思う。斎藤誠の歌には退屈そうにしていました。


車の通行もまばらな夜の万国橋通りを駅に向かって歩きながら、ひとつ思ったことは、ギター、ベース、キーボード、パーカッションというシンプルな編成のコンサートがもたらす「やさしさ」でした。歌い手の歌が、楽器の音一つひとつが、ちゃんと聞き取れる。疲れないコンサート。知らない歌ばかりだったにもかかわらず、「音楽を聞きに行った」と思える満足感がすごく残った。
ハロプロカジュアルディナーショーやファンクラブ限定イベントのライブなどを聞きに行っている人々は、こういう感動を味わえているんだろうな。少し妬ましい。
アイドルのコンサートがカラオケでも別に構わないんだけど、もう少しアコースティックな(もちろん電気楽器が入っていてもいいが)ライブにも力を入れてもらえないだろうか。
メシはいらない。歌だけでいい。そして(チケットの値段を下げて)ツアーをやってもらったら、喜んで行く。