飯田圭織、これからの物語

実際のところはどうか知りませんが、飯田は芸能活動に対し生々しい欲がないように見えます。
もちろん表現者のひとりとしての上昇志向はもっているのでしょうけれど、それはがんがんテレビに出まくってCDチャートを席巻して……というガツガツ型ではなく、たとえば「もっと絵の勉強を」という発言に示されるように、横方向へ領域を広げていきたいと考えているような含みが、いくつかのコメントから伺えます。これからは、本当に自分のやりたいことをやっていこうという決意の目覚めなのかもしれません。
歌手としての彼女は、モーニング娘。で一度は頂点に立つ経験を味わいました。それは不本意ながら「事務所やプロデューサーのオーダーに応える」努力の歩みでもありました。辛かったはずですが、踏ん張れたからいまの彼女があります。逃げれば、現実から突き放される。自分の希望には添わないことを我慢してやってみるのも、人生のどこかでは必要なんです。
初期の彼女は、番組の構成上必要なツッコミが極めてしやすいミステリアスなトークを披露するため、あたかもメインであるかのように喋らされていましたが、あれはかなりの口下手と言っていい部類に入る話術でした(マジメでピュアな子であることが何となく伝わる話し方ではありますけれど)。喋る機会を後輩たちに譲り、一歩下がったところを定位置にしたのは賢明だった。その一方、「鳴き声をもたないうさぎは自己主張ができなくてかわいそう」などと、苦悩していることが偲ばれるようなエッセイを書いたりしていたわけですが。
しかし、そのエッセイもそうですし、また絵本を出したり個展を開いたりと、モーニング娘。ではない飯田圭織の表現手段を見出せたことがカタルシスになり、彼女はずいぶん救われたでしょう。自分の可能性は歌に限らないと気づけて、卒業を楽しみに待ち望む気持ちも、少なからずあったかもしれないなあ。
これからは、飯田圭織飯田圭織のための物語を、真っ直ぐに綴っていく日々であってほしいですね。