その次の安倍なつみ

モーニング娘。という家。

さて、安倍なつみがとうとうモーニング娘。から独立しました。
とはいえ、ぼくはもう疲れ切った中年ですし、感受性も煮こごりのように固まってしまったのか、これといって感慨がありません。保田が辞めたときは、多少は思うところがあったりしたのですが。

安倍はモーニング娘。の顔であり看板でした。
でも、おもしろいのは、安倍が辞めてもモーニング娘。が継続不可能な事態を迎えたりはしないこと。プエルトリコのメヌードというアイドルグループをお手本にしたという、メンバーの新陳代謝をするグループの運営コンセプトが、見事に奏功しています。
音楽評論家の故・福田一郎は、ガールズユニットを長続きさせる方法として絶えざるメンバーチェンジを提案したそうですが、確かに女の子のグループって何年も保たないんですよね。キャンディーズもずいぶん長くやっていたような印象がありますが、5〜6年程度です。
そういえば、制服向上委員会という好例があります。92年の結成以来ろくにヒットした曲がない(吉成圭子というメンバーがソロでミリオン・ヒットを放ちはしましたが)のに、幾度かのメンバーチェンジを経て現在もカルト的に活動中なのです。このユニットは凄いですよ。「虐め追放」を掲げ、「携帯電話の使用マナー向上」を謳い、反戦運動に参加するなど、60年代のフォークシンガーみたいにやたら社会派。こういうやり方もあるんだなあ。
話が逸れましたが、モーニング娘。という母体が揺るぎなく存在し続けているからこそ、メンバーの「卒業」に旅立つ者と残る者の物語という確固たる構図が生まれ、「安心して泣ける」イベントにできるわけで、残るほうもどうなっちゃうかワカラナイような状態では、はなはだ心許ない話になってしまいます。
モーニング娘。は、いってみればスケルトンの家。大きな箱ですね。メンバーはインフィルです。構造を左右しない要素ですから、入れ替えが自由。増減があるたびに空間の眺めは変わりますが、スケルトンは変わりません。耐用年数が過ぎるまで、しっかり残っていくのです。

■その次のなっちへ。

その安倍ですが、ソロになったからといって劇的な変化はなさそうです。以前から、ひとりでやっていけそうな能力は見えていたわけですし、独立後の姿がいちばん想像しやすいメンバーだったから、よい意味でも悪い意味でも期待はずれはないでしょう。順調に成長していくと思われます。
デビュー直後は、まっすぐな笑顔の影に何か暗いものを隠している、大映ドラマか少女マンガから飛び出してきたようなひと癖あるキャラクターかと思ったのですが、テレビ慣れしてくると田舎のおばちゃんみたいにぺらぺらぺらぺらよく喋るので、驚いた記憶があります。たぶん、頭に浮かんだことを脊髄反射的にそのまま口にしているのでしょう、意外とキツイ言い方をしたりする。色気づいたばかりの男の子は、こういう女の子が本当に好きですよね。明るくて、ちょっと気が強くて、泣き虫で、という。ぼくみたいに、ひねたおっさんの年になると、可愛いだけでは騙されなくなりますが、もし20歳若かったら、ヤバかったな。いや、そんなことはどうでもいいです。
健全イメージは申し分ありませんし、弁が立つ。これからあちこちのテレビで使われていくんじゃないでしょうか。とりあえず話を振っておけば何か喋ってくれるので、司会者としては楽なはず。テレビをわかっているから爆弾発言をする心配もなく、それなりにコミカルなコメントも出せるという、まさに現代のバラエティ番組やトーク番組に適した人材です。
お茶の間の側から見ても、この子の笑い方は屈託がなくて広い年代に好印象を与えるでしょう。何だかんだいっても、やっぱり、芸能人としての華がある子です。路線さえ間違えなければ、モーニング娘。在籍時よりも売れっ子になる可能性は高いと思いますね。

歌に関しても、案外(失礼)期待できそうですよ。
2月に出る安倍のソロアルバムに、モーニング娘。さくら組の曲をカバーしたトラックが収録されていて、それはちょっと「お?」となるくらい、きれいに歌えています。
以前の安倍は、声がどこかに突き当たっているような、無理しているようにも聞こえる歌い方をしていて、それがいままで安倍のソロ曲全体につきまとう弱さにつながっていたと思うのですが、いつの間にか歌唱力を磨いていたようです。さくら組バージョンより、音符ひとつひとつが大事に歌われ、音程も、半音と全音の違いが正確に再現されている印象。細かいニュアンスまで鮮やかに表現しきっていました。
これはソロアルバム用に再レコーディングしたのでしょうか。それとも、さくら組でのレコーディング時の音源だったりして。もともとこれくらいはできる子だったのかもしれず、ぼくが不徳にも気づいていなかっただけの可能性がありますね。だとしたら、申し訳なく思います。
うーん、安倍のソロアルバムはまったく興味なかったんですけど、いまは少し、買ってもいいかなーという気になってきました。