初ステージ

保田圭が動き始めました。
といっても、大きな動きではありません。8月8日、モーニング娘。を脱退して3カ月が過ぎたこの日、彼女は初めて、ひとりで生のステージに立ったのです。
お台場で開催された、フジテレビ主催のイベント「フォーク・デイズ 夏祭り」には、中川五郎斉藤哲夫といったベテラン歌手や、中澤裕子メロン記念日などハロプロ・タレントに混じって保田も登場。「LOVE×LOVE愛してる」以来おなじみのミュージシャンたちをバックに、ソロで3曲歌いました。ごく初期は生演奏バックだったというモーニング娘。のライブも、いまはカラオケ演奏になっているから、ファンにとっても懐かしいスタイルのステージだったに違いありません。

歌った曲は、「恋人もいないのに」などいずれも往年のヒットポップスのカバーですが、こういったアーティストらしさを感じさせるステージで自己表現していく進み方こそ、保田がもっとも活きる道でしょう。

彼女は歌唱力が認められてモーニング娘。の増員オーディションに合格しただけに、サポート役として全体のハーモニーを整える役割を背負わされ、シングル曲ではソロパートがほとんど与えられませんでした。事務所がプッシュしたいメンバーの引き立て役になっていたんです。
つまり、アイドルとしての働きが期待されてなかったのだと思う。本人の資質的にも、アイドル路線は向いてないんでしょうね。十代の頃から大人顔で、モーニング娘。卒業コンサートの前後は、かなり顔に肉が付いてしまい、カンロクみたいなものさえ漂わせていた。プロデューサーのつんく♂は「アイドルらしく振る舞おうとするな」という注意を与えていたと「LOVE論」で書いていましたが、こういう実年齢より上に見える子に、アイドルの呼称はちょっと厳しいものがあります。
あ、断っておきますが、保田がブスだと言っているのではありませんぜ。
無理なくアイドルというポジションにスッと収まってしまえるのが、なっちや後藤のかわいらしさだとすれば、保田は「きれいなお姉ちゃん」なんですよ。それも敷居が高い感じではなく、年下でもタメ口で気軽に喋られそうな。バイト先に保田みたいな先輩がいたら、仲良くなりたいですね。きっと楽しいだろうな。……

おっと、白日夢にふけってしまいました。現実のバイト生時代といえば、埋立地の物流センターで台車をゴロゴロ押してただけで。ていうか、「もしも保田と同僚だったら」という想像をするのに、大学生だった昔まで記憶をさかのぼらなければならないんだなあ。おれ、保田と21もトシ離れてんだよ。あらためてビックリだなあ。まあ、精神年齢は同じくらいかもしれないけど。

控えめな性格なのか、マジメすぎるのか、保田は自分の活きる場を自らつくっていく能力に欠け、まったく目立ってない状態がデビューから2年ほど続きました。
そのため一般的な認知度が高いとはいえず、実際のところ、ソロとしてやっていくには今後かなりの努力と幸運が必要だと思います。
ま、ふつうのオジサンたちには、安倍なつみ後藤真希、あと加護亜依くらいしか判別できないでしょうから、保田だけ特別知名度が低いわけでもないんですが、そういった一般受けの部分と、タレントとしての色のなさなどから、マスコミも扱い方を決めかねているらしく、ゲストとして出た番組(オタク以外の人も見る番組)では「元アイドルグループ所属」という大雑把なイメージに依った、いわゆる「姫」的な立場を与えて無難に済まそうとしているように見えます。
それは、いまの保田に「元モーニング娘。」という以外の売りがないからしょうがありません。もし、ソロシングルの新曲でもひっさげて登場するのなら、マスコミも扱い方を考えるでしょうけど。
脱退から4カ月。いや、もうすぐ5カ月目に入りますね。なのに「保田ソロデビュー・シングル」は気配さえもなく、ファンはいつまで待たされるのかと苛立ち始めています。「むしろオリジナル曲のソロシングルは出さないほうが細く長く生き延びていけるのではないか」などと、冗談めかしながらも悲観的な意見を日記に書くファンサイトの管理人さえいます。
気持ちはわかるけど、保田ファンならばこそ、あまり焦らないほうがいいと思います。
娘時代は、冷遇されていたという意見には賛同しかねますが、確かに優遇はされてなかったです。先にも書いたように、「アイドルグループ・モーニング娘。」のメインは安倍なつみ後藤真希で、保田がフロントに立たせてもらえたのは、福田明日香のパートを引き継いだ過去の曲をライブで歌うときなど、ごくごく限られていました。そういう扱いを受けていた人が、ソロになったとたんチヤホヤされるもんでしょうかね? というより、ぼくは保田が大人だから縁の下の力持ち的役割を安心して任せられたのだと思うし、特別な引き立てがなくても、がんばる方法を知っている人だとも思います。
あくまで根拠のない想像ですけど、保田は自作の曲でアルバムを制作するつもりで、書きためている最中なのかもしれませんよ。
あるいは、来年の日生劇場正月公演「羅生門」の芝居に集中したいと、歌はしばらくお休みする気なのかもしれません。
いずれにしても、保田はプロデューサーから「あいつは努力型。何事もパッとはできないタイプ」と烙印を押されちゃってますし、自分でも不器用と認めています。いきなり100メートルを全力疾走するのではなく、じっくりウォーミングアップして、自分なりに納得できてから新しいことを始めようと、謙虚に考えているんじゃないでしょうか。

「フォーク・デイズ 夏祭り」のステージに立った感想を、保田はこう語っています。
(8月9日付けデイリースポーツOn Lineより引用)

「1人で歌い切るのって初めてなので緊張しました。
ダンスなしで聞かせる歌を歌うことにあこがれていたので、うれしい」



健気なセリフです。
こうやって、ひとつひとつ試しながら「あこがれていたこと」を実現していけばいいではないですか。
アイドルらしくないということは、旬を過ぎる前に売り急がなければならないナマモノでもないわけです。
時間は長くかかっても、アーティストとして成長してくれれば。
そんな保田を、ぼくは応援していきます。