フォークソングス4

堪能しました、ソロのフルコーラス


 保田圭モーニング娘。を卒業して1カ月が過ぎた。
ファン心理としては、わくわくしてきた、といったところか。ぼくもそうだ。
5月に発売された全曲カバーのコンピレーション・アルバム『FORK SONGS 4』では、保田のソロが2曲、デュエットが1曲聞けて、うれしかった。これだけで堪能した気になれる、安上がりなファンなんだ、保田ファンは。
しばらく休むのかなと思ったらそんなことはなく、ファイナル・コンサートの直後からピンで活動し始めている。まだ頼りない感じがするし、抱き合わせブッキングが目立つけど、がんばって経験値を上げてほしいところだ。
ところで「役者をやりたい」としきりに口にしていたのは、ありゃ本気なのか? バラエティ出演時の、フレームインしてくる際のツカミとして「女優」という冠を使っているのを見てしまうと、いささか疑念がわいてくる。あー、だけど「お芝居に出るんです」とも言っていたっけ……言い切っている割には、話に具体性がないので困るわけだ。
おおい、圭ちゃん。あなた、本当は何がやりたいの?


というわけで、何をやってほしいか考えてみる

TBS『うたばん』での、石橋貴明の強烈な弄りが、新聞に投書されるほど印象的すぎたため、虐められキャラのようなイメージがあるけど、この子のおもしろさの本質は、天然ボケだと思う。
いつだったか、スクール水着で市営プールへ泳ぎに行っている、みたいなことを言っていた。
「変ですか? だって胸の名札は取りましたよ」そういう問題ではない。
『Matthew's Best Hit TV』では、ディズニーランドへ女性同士で遊びに行き、楽しかったけどデートではなくてせつなかった、みたいな話を披露。

「女性って誰と行ったの」
「青汁屋さん」
青汁屋さんというのが妙におかしい。

こういう天然な人柄のおもしろさをテレビで伝えるのに、なにもバラエティ番組で芸人に虐められたり、変顔を競い合ったりする必要はまったくない。ふつうのトーク番組で充分に引き出せる。ただ、独立したばかりでホームグラウンドもない状態にある現在は、とりあえずのプレセールス期間と位置づけて、仕事を選ばず何でもやっていく姿勢があってもいいと思う。

とはいえ、この子はとりたてて笑いの引き出しが多いわけではないから、あんまりそっち方面で無理しても、って気がする。もちろん、それなりに場の空気を読んで対応していく感性は持っているに違いない。賛否両論ある『うたばん』でのブレイクも、石橋貴明の依怙贔屓の意図に保田が気づいてなければ、あそこまでおもしろくはならなかっただろう。
とんねるずというコンビのコントが本当におもしろいのかどうか、実はよく分からないままだったし、石橋も芸人としてどこまで才能があるのか、ぼくには判断しかねるのだけれど、この人の自然体なトークは嫌いではない。『うたばん』ではゲストのレベルに合わせて喋っていて、モーニング娘。のような子どもの集団相手だと、自分も子どもになりきっている(カワイコちゃん系のメンバーだけを極端に贔屓する態度は、ふつう大人のやることではありませんよね)。ところが、保田と喋るときだけ“我に返って”シビアな罵詈雑言を投げつける。その切り替えの芸は古典的コントそのままで目新しくも何ともないが、保田が意外なほど健闘したので、やりとりがふくらんだのだ。プッチモニ。の仲間である後藤真希吉澤ひとみは、ぽーっとしていてトークのキャッチボールができないから、ひとり保田ががんばらざるを得なかった背景もあるにせよ、「そうか、私はやっぱり冷遇されるのが当然の価値しかないんだ」などと間違った納得をして引き下がっちゃってたら、永遠に成り立つことはなかった「虐め」であり、「キャラ立ち」なわけで。
といったことを踏まえれば、バラエティにちょこちょこ顔を出しながら生き残っていくことは可能かもしれない。
だけど、やはり保田圭ファンとして言うならば、バラエティよりも、彼女がチャレンジしたいと願っているらしいお芝居よりも、歌手というフィールドに立っている保田圭が、いちばん見ていたい保田圭だ。

などと、えらそうなことを書いてますが

正直に告白すると、保田圭に対しては、当初「何でこんな地味で暗そうな子が追加オーディションを勝ち抜けたのだろう」と、かなり失礼な疑問を抱いていたのですわ。
Yahoo!2ちゃんねるなどの掲示板で、アンチヲタから「ぶさいく」「きもい」と心ない悪口を投げつけられ続けている(最近はそうでもないのかな)が、確かに彼女の容貌はかなり押し出しが強い。部品のひとつひとつが大柄で、派手。猫顔がそろっていた初期の娘。のなかでもとりわけ猫っぽい。もともとエラが張り気味のがっしりした輪郭。なのに加入当初はオリジナル・メンバーに遠慮するおどおどした気持ちが、とりわけ大きな目の動きに表れて、何だか泣き出す寸前のようにも見え、こんなに自信なさげでは保田圭不要論がネット上でわき起こるのもしかたがなかったかもしれない。しかし、大人になるにつれて頬骨が高くなり、ハリウッドの個性派女優のごとき貫禄を漂わせるに至った。
フォトグラファーからすると、ある意味この子はレンズの向け甲斐があると思う。角度によって、ぜんぜん表情が違うのだ。ものすごくかわいかったり、田舎のパチンコ屋で球を弾いているおばさんふうにワイルドだったり。

顔の話になっちゃいましたけど、ただ、千葉県人という点にシンパシーを感じていた(ぼくは千葉県育ちだから)のと、プッチモニ結成直後『LOVE LOVE愛してる』に出演した際、篠原ともえと楽屋で絡む場面で、膝小僧を抱え体育座りをしている保田がちょっとかわいいと思ったりもしていた。とはいえ、「もうちょっとがんばらないとヤバいぞ保田」とも思う部分も少なくなかった。トーク番組で喋っているところを見る機会がなく、歌うときもほとんど映らないんだもん。

しかし、決して目立つのが嫌いなのではなく、他のメンバーや司会者とのやりとりを真剣にうかがって機会を待っている感じ、本当は会話に参加したいんだけどためらっている様子は、ぼく自身が口下手で人見知りが強く、そのためにいろいろ損をしてきた男だから、お仲間感というか、伝わるものがあった。
あわよくばテレビで歌を歌う仕事をしたいと望みオーディションに応募してきた人間が、引っ込み思案でどうするんだ、矛盾してるだろうと言い放てる人は、たぶん、自分のコミュニケーション能力に悩んだことのない人。それとこれとは別なんです。

という共感めいたものが、はっきり好感に変わったのは、『LOVE論』を読んで、つんくの保田に寄せる信頼度の高さを知ってからだ。


縁の下でがんばっている人に弱いワタシ


ぼくは、組織を縁の下から支える秀でた力の持ち主のエピソードに触れると、無条件に感動してしまう。「あんた、知らないだろうけど、あそこはある意味あいつの腕で保ってるんだぜ」みたいな話に、とても弱いんだよ。
気づけば、モーニング娘。のスタジオライブやCDを聴くとき、無意識に保田の声を探すようになっている自分がいた。

「声に芯がある」というのがつんくによる保田評だが、それだけにパート割りとなると、サポート的な立場に回されてしまうので、ファンにとっては嬉し悲し。パ・リーグの試合が見たいのにテレビではちっとも中継してくれないつらさに通じる? ちょっと違うか。
だから、保田のソロが聞ける『FORK SONGS 4』は待望のアルバムだった。
蓋を開けてみると、期待をはるかに上回るクオリティだった。上手い下手なら、保田より上手い人はたくさんいるだろうけど、いい雰囲気を表現できていると思う。
なにしろ、演歌を歌い込んで磨いた声だ。モーニング娘。加入後は、つんくに厳しく指導され、2日に1回ペースのヘヴィサイクルなライブで鍛えられている。歌い方は素直で、安倍なつみ飯田圭織が、拍の頭の音を、なんていうんでしょう、こう2連符に分解してしゃくり上げるような歌い方をするのとは明らかに違う。すーっと沁みてくるような声だ。
矢口真里とデュエットしたトラックも1曲入っているが、ハモっている部分は少ない。矢口も歌い方が素直で、音程の安定したボーカリストだから、この組み合わせには期待していたのだが、交互にボーカルを取り、ハーモニーは味付け程度でかすかに聞こえるアレンジ。ちょっとがっかりした。

それはそれとして、『異邦人』のカバー、かなりぐっと来ますよ

かと思えば、娘。メンバーとして最後の出演となる『ミュージックステーション』で「Never Foget」をメインボーカルで歌ったとき、いきなり出だしの音を完全に半音外してくれる。声も全体に裏返りそうでしたね。まあ、緊張しすぎたゆえのご愛敬だろうけど、絶好の機会をコカシてしまうのは、不器用な彼女らしいシーンだった。
もちろん、アルバムではそんなことはない。安心して聞けます。実にいいです。


産経新聞に載ったインタビューでは、「作曲もやってみたい。つんくに作曲術を教わりたい」と語っている。そういう面でも、これからが楽しみだ。サックスは、いかにも中学のブラスバンド部レベルという感じだが、エレクトーンはデビュー直前まで習っていたらしいので、鍵盤楽器の弾き語りで自作の歌を歌うところを、もしかしたら見られるのだろうか。本人曰く、もう10曲くらいストックがあるという。それが言葉通りだったら、案外、その日は近いのかもしれない。